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2020.03.22
コラム

ディレクターズカットvol.2「3月22日」

 操車場にはロシアのアレクサンドル・ポノマリョフの作品があります。3台並んでいる機関車(四輪連結十輪タンク機関車(B型機関車)が1台、六輪連結十輪タンク機関車(C型タンク車)が2台)を見てもらおうとの趣向で、その前に構内のレール上を自在に動ける軌道バイクが2台並んでいます。このレールは小湊鉄道の機関区の人たちのプライドの結晶です。

  

 ポノマリョフは私が「鍛冶屋さん」と呼んでいる鍛冶屋場に、もう一つの作品蒸気機関の永久ピストン運動を設置します。

  

 これらは、この操車場が鉄道の出発点であると同時に、創意工夫、発明の揺籃であることを示してくれています。
 ポノマリョフはアーティストになる前、船に乗って外洋に出ようと船乗りになった人で、いろいろな制約があるであろうロシアの国の枠を越えて、「南極ビエンナーレ」を開催しました。その美術と冒険と科学が絡まった夢は、このアート×ミックスの初心と響きあっています。


 ちなみに今回参加するロシアの4人の作家は全員、昨年8月から10月にかけて市原湖畔美術館で開催された「夢見る力―未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」で選抜された人々です。

 

 五井機関区には、この他、ターニャ・バタニナの「翼」がインフォメーションに設置されるほか、ホームには1942年の映画「カサブランカ」の一曲が鳴り出す仕掛けがあるアデル・アブデスメッド(アルジェリア/フランス)のピアノが吊り下げられ、ウクライナのザンナ・カダイロバは客車1車を使ってウクライナの首都キエフから市原、銀河へとつながる列車の旅を用意し、台湾のチョアン・チーウェイ(荘志維)は地元住民による地域情報を紡ぎ出す壁を設置します。
 これは小湊鉄道による、この地域の夢と、宇宙への夢、そして少年少女の夢をのせた銀河鉄道への出発になるわけです。

Illustration:Leonid Tishkov

 

 

 小湊鉄道の9駅目は上総川間駅ですが、私は何年も、何十回となくこの地域に通っていても、「あれが駅だ」と言われるまではまったくわかりませんでした。
 しかし、遠くから見ると古代遺跡のような風格があるのです。「乗降客がいるのだろうか?」と思えるぐらいですが、それもそのはず、1953年に市原園芸高校(現:市原高等学校鶴舞グリーンキャンパス)のために設置したものと聞けば納得いくものです。

 

 ここにキューバのジョアン・カポーテが「Nostalgias」というタイトルの、全国から集まったスーツケース約80個による壁を設置しました。
 キューバといえば半世紀以上前、冷戦下の世界のひとつの中心だった国、白鳥小学校にあるカルロス・ガライコアの作品もそうですが、キューバは美術も元気なところです。カポーテが何を考えたのか聞きたいな。

 

 10駅目は成田久の「試着駅」がある上総鶴舞駅。駅舎の壁にはかわいい女の子のポートレート写真がたくさん飾られていて、これがとてもいい。聞けば、なるほど、成田さんは資生堂のデザイナーでもあるのです。

 

 圧巻は駅舎に吊られている空色の数々の衣裳です。ひとつひとつ丁寧につくられていて、私も思わず着てみたい!と思ったほどです。
 小湊鉄道は特別なデザインブランドの店がある、ファッショナブル鉄道でもあるのです。

 

 11駅目の上総久保駅には、西野達による「上総久保駅ホテル」があり、実際に宿泊可能です。これが設置許可になるための工夫が必要だったのですが、これは内緒。
 ぜひマエストロ西野さんによるホテルに宿泊してみてください。詳細はやがて発表されます。

 

 この連日、人々は灯火管制のような日々から外に出て太陽を浴びています。「菜の花の市原」は夢幻のようでした。

3月22日 北川フラム