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2020.08.03
コラム

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビュー vol.7「公共空間の新しい可能性」

 今回は台湾からチョアン・チーウェイ(荘志維)さんがインタビューに答えてくださいました。
 チョアンさんは、いちはらアート×ミックスの入り口となる予定だった五井駅東口のインフォメーションセンター前と、芸術祭エリア内の終点となる養老渓谷駅に、来場者が思い出を記すことのできる作品を展開予定でした。新型コロナウイルス感染症への対応がスムーズだったと報道されている台湾。実際にはどのような状況だったのか、アーティストはどのように過ごしたのかを聞きました。

参加者(順不同、敬称略)
チョアン・チーウェイ 、北川フラム総合ディレクター、いちはらアート×ミックス実行委員会事務局

(左から)チョアン・チーウェイ、 北川フラム総合ディレクター、 いちはらアート×ミックス実行委員会事務局、

 

 

北川総合ディレクター(以下、北川D):
チョアンさんは今どちらにお住まいで、この間どのように過ごしていましたか?

 

チョアン・チーウェイ(荘志維)さん(以下、チョアン):
 今は台北のスタジオにいます。台湾は、実は早い時期にコロナウイルス感染症の影響を受けており、2月ごろから影響が出ていました。2月から5月までは色々なところが閉鎖的になり、どこに行くにも基本的にはマスクを着けなければなりませんでした。

 私はパフォーマンスアートとのコラボ作品を作る予定だったのですが、20人以上集まるイベントを開催することが禁止されたため、全てストップしてしまいました。展覧会含め仕事は全てストップしてしまい、何をしたらいいのかわからなくなってしまいました。

 街は閉鎖的になりましたが、ウイルス自体の影響を深刻に受けたわけではないので、友達などと少人数でご飯を食べることはできました。

 この状況の中で、私はこれまでスタジオなどで仕事ばかりしていて友達や家族と過ごす時間が少なかった、ということに気づきました。2月から5月は家族や友達と会って過ごす時間が増えました。

 最近、台湾は規制が緩和され、移動もできるようになりました。実は昨日、台湾南部の雲林県に行き、日食を観ました。これまでは日本やバンコクなど国外ばかり行っていましたが、この状況になり国内の色々なところを訪れるようになり、あらためて台湾の美しさを知ることができました。

 

北川D:
 台湾は上手くコロナウイルスを抑えているモデルになっていると聞いていましたが、そのようなことになっていたとは知りませんでした。貴重なお話をありがとうございます。

 日本では、罰則はありませんが3月から移動やイベント、大人数での会食などを自粛するようになりました。今は少しずつ緩和してきています。

 

チョアン:
 ほかには、地下鉄に乗るときは必ずマスクをつけなければならない、などの規制がありました。また、パブリックな空間では1.5メートル以上の距離をとることとされていました。少人数では集まることができましたが、経済状況は悪くなっています。アートやデザイン業界含め、かなり大きな影響を受けています。

 台中国家歌劇院のレジデンスに参加することになっており、今年に入ってずっとこの仕事をしていました。どのような展開にするか元々決まっていたわけではなく、私自身がもともと建築分野の出身だったこともあり、伊東豊雄さんがデザインした建築物に心を惹かれ、オペラハウスという建築物に対する見方から着手しました。

 「オペラを観る」という機能が決まったものとして備わっているパブリックな建築物であるオペラハウスに対して、別のアプローチをしたいと考えました。普段、一般にはオープンしていない、立ち入ることができない場所に観客を連れて行くような仕組みを考えています。

 コロナウイルス感染症が流行する中で、人と人の関係に興味を持ったことが影響しています。絵を描いてもらったり、記録をとってもらったりすることで、オペラハウスに潜むたくさんの可能性を開きたいと思っています。描いた絵や撮った記録を展示することも考えています。

 

北川D:
 それは面白そうですね。

 

チョアン:
 展覧会のタイトルは「一緒に散歩する(?起散?)」です。一人のアーティストでは何も変えることができないかもしれませんが、たくさんの人が一緒に空間を歩くことで、もともとその空間が持っていたルールを打破できるのではないかと考えました。

 多くの方からいろいろな声をいただき、オペラ座を管理していた方々の考えをも変えることができました。そこでのパフォーマンスの可能性を広げることになるのではないかと思います。

 

 

北川D:
 他にもプロジェクトを進めているそうですが?

 

チョアン:
 台北ポップミュージックセンターで9月に開催するプロジェクトを進めています。一年前に依頼され、私の経験の中では初めてキュレーターとして取り組んでいます。

 私はビジュアルアーティストではありますが、様々なジャンルの複合によるパブリックアートのプロジェクトを考えています。

 台湾の従来のパブリックアートといえば、ある場所に大きな彫刻を置く、というイメージですが、パブリックアートの公共性について新しい定義をしたいと考えています。ワークショップ、インスタレーション、コンサートなど、様々な企画を準備しています。

 タイトルは「恋しい思いは歌である(思念是一首歌)」です。こういった感情は誰しもが持つもので、場所や人など恋しく思うものは全て歌になることができる、というコンセプトです。

 7~8月からワークショップを始め、歌詞を作ります。ポップミュージック分野のアーティストとのワークショップで、恋しく思うということについて話し合い、市原で皆さんにやっていただいたように歌詞をガラスに書いてもらい、展示する予定です。9月にポップミュージック歌手のSuming(舒米恩)さんによるコンサートを開き、その後展示をします。

 

北川D:
こちらも面白そうな試みですね。

 

 

北川D:
 チョアンさんはいちはらアート×ミックスでも、地域の方々と一緒に作品をつくるワークショップを開催していましたが、感想はいかがですか?また、来年の3月に向けての期待などがあれば教えてください。

 

チョアン:

 市原でのワークショップにたくさんの方が集まってくださったということは、私の後の作品に影響を与えました。人と人との関係への関心を持つようになりました。

 来年は作品を展示する場所が変わるかもしれないことを伺いました。どのような場所に展示することができるのか、楽しみにしています。作品を皆さんに見ていただくことも楽しみにしています。

市原でのワークショップの様子

 

北川D:
 またアートミックスが開催する時に何かできると良いですね。

 

チョアン:
 そうですね、早く日本に行きたいと思っています。もっと日本を歩いて、見て周りたいと思っています。

 

北川D:
 楽しみにしています。

 

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビューシリーズ
vol.1「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」
vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
vol.3「国境を越えて」
vol.4「作家の小さな日常の変化」
vol.5「時差12時間」
vol.6「リモート撮影会?」