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北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビュー vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
北川フラム総合ディレクターによるアーティストインタビュー、先日は今もなお新型コロナウイルス感染症の感染者が増加し続けるロシアのアーティスト4名にお話を聞きました。
本日は、オランダから参加するマルニクス・デネイスさん。養老渓谷の風景を映像やサウンドでバーチャルに巡ることができる作品を発表する予定です。人と人が直接会うことができないという状況の中、デジタルな作品を制作する彼ならではの考えやプロジェクトについて聞きました。
参加者(順不同、敬称略)
マルニクス・デネイス、北川フラム総合ディレクター
北川フラム総合ディレクター(以下、北川D):
まず、コロナウイルスの影響によるオランダの状況やマルニクスさんの活動状況について教えてください。
マルニクス・デネイスさん(以下、マルニクス):
オランダでは段々社会が動き出しています。学校に登校できるようになり、美容院などの店舗も営業を再開しています。
制作活動についてはロッテルダムの自宅と、港の工業地帯にある制作スタジオが歩いて行き来できる距離にあるため、ほとんどの時間ひとりで作業ができてラッキーでした。毎日コンピューター機材の整備や作品制作をしています。
北川D:
日本では、市原も東京もできるだけ外に出ないようにしなければならない、という状況が今月いっぱいまで続きそうです。
マルニクス:
オランダでも外に出ないことが推奨されていますが、警察などによるチェックが行われているわけではないので、外出しようと思えばできる状況です。
北川D:
チェックがなされていないというのは日本も同じですね。2週間ほど前に、ロシアの4人の作家とお話をしましたが、その時と比べこの2週間でロシアは大変なことになっているようです。
マルニクス:
ロシアが大変な状況であるということは聞いています。オランダはロックダウンとまではなっていない状況です。公園に行って散歩をすることもできます。昨日は病院を受診しなければならない症状の感染者が国内全体でいなかったとのことです。
北川D:
このような状況について、マルニクスさんがどのように感じているか聞かせてください。
マルニクス:
まず、私自身はこの状況の中でアートの作り手であるとともに、本を読んだり映画を観たり、消費者としても過ごしています。
アーティストは隔離された場所のなか一人で思考を巡らせ、制作をすることに慣れています。人々はアーティストの働き方から学ぶことがあるのではないでしょうか。この時間は人々が物事について考え、何かに集中して取り組む時間になると思います。
北川D:
日本でも人々はほとんどの時間、自宅で仕事をしている状況です。私も映画をテレビを見るなど、一般的な文化消費者としての立場を堪能しています。
マルニクス:
オンライン上で美術作品を鑑賞できるサービスがありますが、あまり観ていません。本や映画の方が面白く感じます。
一つ興味深かったのは、有名な絵画のオンライン展示です。高画質でアップロードされているため筆の圧や割れが見えます。現物を見てもそこまで拡大して見ることができないので、現物を見るよりも詳細に見ることができる、という点は面白かったです。
北川D:
このような状況の中でどのようなことをすれば良いか、アイディアがあれば教えてください。
マルニクス:
私たちは直接会うことができない中、日々のほとんどをコンピューターの画面を見つめて過ごしています。私は幸運にも、この状況を活かしてロックダウン中のフィジカルなコミュニケーションについてのプロジェクトを進めています。
そんな中、ノーマン・ホワイトとダグ・バックの作品《テレフォニックアームレスリング》(1986,2011)に改めてインスピレーションを得ました。
《テレフォニックアームレスリング》は、電話回線を使って接続された力伝達システムにより、離れた場所にいる人同士で腕相撲をする作品です。
私が《Push Pull》と《Cross-Connected》(共に作家が2002年に発表した作品)のインスタレーションを制作していた開発していた2000年代初頭にインスピレーションを受けた作品のひとつでした。どちらの作品も《テレフォニックアームレスリング》のインターフェースと同様に、ネットワークを介したフィジカルなコミュニケーションの可能性を探っています。
インターネットは、テキストや画像、音声によるコミュニケーションを取るには非常に便利な手段ですが、フィジカルなコミュニケーションについては学界外であまり探求されていません。私は、直接会ってコミュニケーションを取れないこの状況の中だからこそ、オンライン上でそれを可能とする新たな作品の開発に挑戦したいと考えています。
もちろん《テレフォニックアームレスリング》と全く同じものは作りませんが、ヒントをもらいながら離れた場所でお互いに触れ合えるようなインターフェイスを開発したいです。作品にユーモアを加えることで、少しでも現在の状況を乗り切る助けになればいいなと思っています。
日本ではあまりお互いに触れ合う文化がないかもしれませんが、ヨーロッパではしょっちゅうです。いま、それができないというのはとても変な感覚がします。
北川D:
そのプロジェクトは今年いっぱい中に完成させるつもりなのでしょうか?
マルニクス:
公式な発表は年内ですが、一か月以内にリサーチの成果を公開できればいいなと考えています。リサーチの過程を広くシェアしたいです。一年後の状況がどうなっているかわかりませんしね。
北川D:
もし実現したら教えてください。他の場所とも繋いでみたいです。
マルニクス:
機器も小型にして、文化施設などに配布できるようにしたいと考えています。お互いに触ったりできたら面白いですよね。シールのように薄いのもいいかもしれませんね。着手したばかりなので、まだまだですが…。
北川D:
オランダは世界的に見て、若いアーティストに対するサポートが手厚い国だと聞いていますが、この状況の中ではどのようなサポートがあるのでしょうか?
マルニクス:
普段の状況から考えるとショッキングなことに、国レベルでは何のサポートも無い状況です。隣りのドイツでは様々なジャンルのサポートがあると聞いています。自営業に対するサポートはありますが、アーティストは応募することができません。アーティストも自営業ではあるのですが…。
自治体レベルでは若いアーティストに仕事を依頼するプログラムや、低価格なスタジオの貸し出しなど様々なサポートがあります。
今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。
北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビューシリーズ
vol.1「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」
vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
vol.3「国境を越えて」
vol.4「作家の小さな日常の変化」