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2020.06.09
コラム

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビュー vol.4「作家の小さな日常の変化」

 北川フラム総合ディレクターによるWEBインタビューは今回で第4回目。 今回はトルコ出身のアイシャ・エルクメンさんにお話を聞きました。
 日本ではいちはらアート×ミックスのほか、大地の芸術祭にも参加されるなど国際的に活躍され、世界中を飛び回っているアイシャさんならではの発想もありました。

参加者(順不同、敬称略)
アイシャ・エルクメン、北川フラム総合ディレクター

(左上から時計回りに)アイシャ・エルクメン、北川フラム総合ディレクター、いちはらアート×ミックス実行委員会事務局

 

 

北川総合ディレクター(以下、北川D):
 アイシャさんは現在どのような状況で、どのように過ごしていますか?

 

アイシャ・エルクメンさん(以下、アイシャ):
 私は現在ベルリン(ドイツ)におり、イスタンブール(トルコ)に行く予定でしたが、出発の二日前にフライトがキャンセルになってしまいました。その後ドイツ自体が国境を閉じてしまったため、ベルリンにとどまることとなりました。

 普段、ドイツ人は自由に外国を訪れることができるものの、他の国の人は入国するのにビザなど様々な制限があります。しかし、今はドイツの人が自由に外に出ることができないという、なんだか皮肉な状況になっています。ある意味ではドイツ人と他の国の人がより平等になったと言えるかもしれません。

 参加する予定だった展覧会も中止になってしまい、たくさん時間ができました。ずっと習いたいと思っていたけれど時間が無くて始められなかった、お菓子作りやパン作りを、YouTubeを見て学んでいます。そこに、人間の生き方の基本があるように感じます。

 YouTubeで料理を学ぶということは、なんだかテレパシーのように感じられ、私にとって「アート」の代わりになっているような気さえしています。

 そのほかには、今後自分自身が何をやっていくのかを考えていくために小さなドローイングを書いたりしています。また、1か月後に展示会を開く予定なのでそのための活動をしたり、散歩をしたりしています。

 こういった必要最低限な生活は、昔の人間の生活にだんだん近づいている気がします。今となっては、なぜ私たちはあれほどたくさん飛行機に乗って遠く離れた場所に飛んで行ったりしていたのだろう、とさえ思います。大地の芸術祭に参加した際は、日本に来て一晩で帰国する、ということもしましたが、頻繁に行き来するのではなく、どうしても必要な場面でのみ飛行機にのるということを心掛けようと思っています。

 

 

北川D:
 ベルリンの街はどのような状況ですか?

 

アイシャ:
 ベルリンの街、特に私の住んでいるエリアは空っぽでしたが、だんだん人が戻ってくるようになりました。お店が再開し始めたおかげだと思います。

 私は、コロナウイルスの影響で世界や人々のこれまでの生活スタイルは変わるべきだと思っていましたが、外を見ている限りではだんだん元の世界に戻っていくだけなのだろうと思います。
お店の前には入店制限の列ができていて、人々の消費活動は変わらないのだなと感じました。

 また、映画を毎晩観るようになりました。昔のものから最近のものまでたくさん見ているので、おすすめの作品があったら教えますね。

 

北川D:
 ぜひ教えてください。私もアイシャさんと全く同じ状況で、毎日映画を1本見ています。今朝は4時くらいからフランスの映画「エディット・ピアフ?愛の讃歌?」を観ていました。

 

アイシャ:
 私は、例えば、最近見たゴダールの「モンパルナスとルヴァロア(Montparnasse et Levallois)」が良かったです。他にも色々おすすめがあるので、後でメールを送りますね。

 

 

北川D:
 今後の予定はいかがですか?

 

アイシャ:
 ドイツ南部で7月に展示会を開催する予定です。もともとは新作やイスタンブールから持ってきた作品を展示する予定でしたが、計画やコンセプトをすべて変更し、ベルリンにある作品をそのまま持っていくことにしました。

 私自身や作品の移動が制限されていますが、できる範囲の中でやれることをやる、というのは新しいチャンスになると思います。

 

 

北川D:
 今後のアイディアなどがあれば教えてください。

 

アイシャ:
 私は車も自転車も持っておらず、歩くことしかできません。移動が制限される中で、今後のアーティストとしての人生や作品制作について、どうしていけばいいかということをたくさん考えています。また、鳥の絵をたくさん描いています。

 

北川D:
 オーストラリアのミカーラ・ダウアーさんも鳥についての作品をつくっていると話していました。

 

アイシャ:
 窓の外を見たら木があって鳥がいて、自然を観察するようになりました。朝外を見て鳥がいるか、その鳥が飛び方を教わったのか、など小さな変化を気にするようにもなりました。

 

北川D:
 アイシャさんの近況がわかり、何か穏やかに過ごしていらっしゃるようでうれしいですね。

 日本では、「この状況の中で増えたことは何か」というアンケートをとったところ、「家族との時間」「料理をする時間」という回答がトップ2でした。

 また今度、一日と言わず日本に来てゆっくり過ごしてください。アイシャさんの作品はとても良いものですので、皆さん喜ぶと思います。

 

 

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビューシリーズ
vol.1「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」
vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
vol.3「国境を越えて」
vol.4「作家の小さな日常の変化」