ニュース

2020.11.16
コラム

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビュー vol.10「大野昆虫記」

 今回は旧平三小学校に作品を展開する大野修平さんにお話を聞きました。
 昆虫をテーマとした作品を展開してきた大野さん、いちはらアート×ミックスでも市原市で採取したアオムシを用いた作品を展開する予定です。

 この日はシリーズ初めてとなる対面によるインタビュー。大野さんとは10代の頃から交流がある豊福アートディレクターも参加され、対面ならではの盛り上がりを見せていました。インタビューのテーマも昆虫。童心に帰ったような皆さんの笑顔がとても印象でした。

参加者(順不同、敬称略)
大野修平、北川フラム総合ディレクター、豊福亮アートディレクター、いちはらアート×ミックス実行委員会

 

(左から)北川フラム総合ディレクター、大野修平さん、豊福亮アートディレクター

 

北川総合ディレクター(以下、北川D):
大野さんには昆虫のことを色々聞いてみたいのですが、まずは自粛期間中、どのように過ごし、どのようなことを考えていたのでしょうか。

 

大野修平さん(以下、大野さん):
 収入を得ている建築関係の仕事についてはほとんど影響がありませんでした。忙しく過ごさせていただいていまいた。家族は家にいることが多かったので、子どもと遊ぶ時間が増えましたね。息子は僕に似て虫取りが好きなので、明るいうちに家に帰り、息子と一緒に虫取りにいくのが日課になりました。

 私は池袋に住んでいるのですが、ある日車で少し遠出して原っぱに行ったら、たくさんのショウリョウバッタが植物にしがみついたまま死んでいました。よく見たらみんな脱皮に失敗して死んでいたんです。コロナウイルスの影響かなと思ったのですが、調べたところ関係ありませんでした。脱皮は虫たちにとってものすごいリスクだそうで、カマキリなども脱皮で死んでしまうことが多いそうです。

 

北川D:
 小さいころ、カマキリの卵を家においておいたらみんな死んでいました。おかげで昆虫が飼えなくなってしまいました(笑)

 

大野さん:
 僕の息子もカマキリが好きです。よく見たらちゃんと動く人間を目で追っているなど、面白い生き物です。

 

北川D:
 カマキリはいつ頃卵を産んで、いつ頃孵るんですか?

 

大野さん:
 夏の終わりには成虫になっているので、秋頃卵を産んで春には孵りますね。

 

北川D:
 どこに卵を産み付けるんですか?

 

大野さん:
 僕は都市部に住んでいたので、よく見かけたのは家の壁ですね。中身はあるのかなとか、子どもの頃からよく観察していました。

 

 

北川D:
 虫に興味を持ち始めたのはいつ頃からだったんですか?

 

大野さん:
 一番古い記憶は3歳ごろです。お隣に住んでいる人がとってきたクワガタムシに興奮しすぎてベランダから落ちたのを覚えています。また、もともと絵を描くのが好きだったんですが、虫を見て描くことが好きになりましたね。

 

北川D:
 小さいころから虫は飼っていたんですか?

 

大野さん:
 飼っていました。自分の中で何が飼いたいのか、ブームが変わっていくんですよね。虫取りに行って見かけた虫を家に帰って図鑑で調べて、欲しくなって探しに行くんです。

 

北川D:
 どのような虫を飼っていたんですか?

 

大野さん:
 大学生の時にはオオクワガタを飼っていて、オオクワガタに関する作品も制作しました。

 オオクワガタは木の中に巣を作り、その中の樹液を吸って生きているためなかなか外に出ないと図鑑に書いてあったのですが、飼ってみたところ、図鑑書いてあった生態のとおりだったことがいちばんの感動だったように思います。子どもの頃はあまりそういったことも考えずに飼っていました。

 

北川D:
 世の中でのブームもあったんでしょうか?

 

大野さん:
 2000年代にはブームがありましたね。目が赤いなどの突然変異がある個体は何百万円もする、といったこともありました。

 

北川D:

 サンシャイン池袋で昆虫を売っていたような記憶があります。

 

大野さん:
 博覧会を開催するスペースがあったのでそこで売っていたかもしれませんね。

 売っている虫を買ってもらうことはできなかったので、関東や北海道など、全国で虫を探し回っていました。北海道にはほとんどいないと言われているにも関わらず探し回っていましたね。

 

北川D:
 今も飼っているんですか?

 

大野さん:
 今は自分がとってきて、子どもが欲しいと言ったものを飼っています。

 今いるのはクワガタムシ、カブトムシの幼虫、カマキリ、鈴虫です。あまり珍しいものはいません。専門店にも行きますが、今は飼う気持ちになりませんね(笑)

 

北川D:
 大地の芸術祭の会場でもカブトムシを育てて配っています。生態が変わるといけないので、死ぬまで飼うようにお願いしています。

 

大野さん:
 カブトムシはすぐに成虫になるので、つがいで飼うととても増えてしまうようですね。

 

 

北川D:
 昆虫に関する作品を制作するようになったきっかけを教えてください。

 

大野さん:
 昆虫の世界と人間の生活がどう接しているのか、その関係性を知りたいと思っています。

 今、進化論について勉強しています。進化論には色々な説や解釈があり、社会的、政治的に影響を与えていることを認知されているのか認知されていないのか、科学なのか思想なのか、というところに興味を持っています。動物は意思で進化する、しないという説もあり、何が本当なのかわからない状況です。そういう意味で、人間と自然の関係に今一番興味がありますね。これを作品に絡めることができないかな、と思いながら制作を進めています。

 

北川D:
 昆虫の作品を制作するためにアーティストになりたいと考えたのでしょうか?

 

大野さん:
 特別、昆虫のために作品を制作する、ということではないですが、いちばん関心のあることしかできなくなってきたというか‥集中できるのは昆虫、動物関係ですね。

 

 

北川D:
 豊福さんと大野さんは付き合いが長いようですね。

 

大野さん:
 初めて会ったのは17歳の時でしたね。

 

豊福亮アートディレクター(以下、豊福AD):
 私たちが大学を受験した時代は子どもの数が多く、ちょうど美大受験が一番厳しい時で、東京藝大の倍率は50倍近くだったように記憶しています。そんな非常に濃い受験時代を一緒に過ごしてきた仲です。僕には無いものを持っていると思います。

 

大野さん:
 それはお互い様ですよ。(笑)

 

豊福AD:
 昔から面白いものをたくさん作る方であり、専門色が強い所もある方だったので、ぜひそれを見せてほしいと思い、今回の芸術祭に推薦させていただきました。

 

 

北川D:
 「Artist's Breath」の動画を拝見しました。とても面白かったです。皆さんにも興味を持っていただけると思います。

 

大野さん:
 アオムシはアップで見るとかわいいですよね。

 

北川D:
 ゴキブリを見てもかわいいと思うんですか?

 

大野さん:
 ゴキブリも作品のテーマにしてみたいと思っていますが、嫌悪される方が多いのではないかなと思います。私はそういった感情はあまり持っていないのですが、歳をとると少し出てきますね。

 その正体はなんだろう、「嫌い」とは一体何なのだろうと考えます。昆虫に限らず、自然に生きる動物にはリスペクトするところがたくさんありますが、なぜ皆さん嫌悪するのか疑問に思っています。

 妻は栃木の出身なのですが、私とは考え方が全く違います。例えばカミキリムシを見つけた場合、私はとって子どもに見せたりしますが、妻はすぐに駆除しようとします。彼女たちにとっては害虫なんです。

 

北川D:
 作品を公募すると、昆虫を綺麗なもの、かわいいものとして出そうとする人がいますが、中にはゴキブリなどを、典型的な自然と人間の関係を表現するものとして出そうとする方もいますね。

 

大野さん:
 少し話は変わってしまいますが、山にいるゴキブリはかわいいんですよ。(笑)

 オオゴキブリといって、大きく動きが遅くて、朽木を食べて生きているゴキブリがいます。高額でも取引されています。遠目からみるとぴかぴかしていてカブトムシやオオクワガタに見えますね。

 

北川D:
 北海道にゴキブリはいないと聞きますが本当ですか?

 

大野さん:

 私は中学校1年生まで北海道に住んでいましたが、いませんでしたね。同じように、カマキリ、カブトムシ、アブラゼミ、ミンミンゼミはいませんでしたね。

 

北川D:
 海を渡ることができないからでしょうか?

 

大野さん:
 セミは渡ることができないと聞きます。昔は川を境にミンミンセミがいるかいないかが変わっていた、という話も聞きます。今は物流などにより渡っているんでしょうね。

 

 

北川D:
市原での作品について教えてください。

 

大野さん:
 ジャポニカ学習帳の表紙に載っていたチョウチョの写真が、嫌悪感が原因で差し替えになったと聞きました。実際に学習帳を使う子どもたちではなく、先生からの声だったとのことです。

 そういったことをきっかけに、綺麗なドレスの柄にチョウチョ、ハチなどを使ったりしますがそれが本物だったらどうなるんだろう、更に着るとなったらどうなるんだろうというところから作品をつくりました。

 また、市原での作品をもう一度見直すことができたのは今までにはない経験でした。少し作り変えようかなと思っています。展示した際に機械を操作してもらう人のことを考えていなかったので、そういった細かいところまで作り込んだ方が良いと思っています。

 

北川D:
 今年の3月に展示予定だったチョウチョは今どうしているんですか?

 

大野さん:
 市原でとったアオムシを東京で育て、羽化しましたがそれは市原で放しました。作品としては一度完結しています。またこれから新しい昆虫をとりに行きます。昨年は台風の影響でほとんどアオムシがみつからず、現地の方にサポートしていただきました。

 

豊福AD:

 皆さん「どこにでもいるよ」とおっしゃるんですが、丸二日探してもいませんでしたね。

 

北川D:
 アリに興味をもつ子どもが多いと思いますが、アリについての作品は制作しなかったんですか?

 

大野さん:
 巣をつくったことはありますが、作品にしたことはないですね。アリやハチなどの社会性昆虫についても勉強したいと思っています。ハチは言葉を使うことができたり、人の顔を覚えるということも聞きます。先ほど進化論について触れましたが、先日調べたところ、遺伝子検査により地球の生物種の90%以上は、地上に現れたのがこの20万年以内であり、進化していないと結論付けられた、つまり進化論が全否定されているんです。

 

豊福AD:
 昔、進化論なんて嘘だ、という話で盛り上がりましたね。

 

北川D:
 大半の類が進化していない、というのはわかるような気がします。

 

大野さん:
 人間の思考のスパンでは考えられないような時間軸だと思っていましたが、その説によりスパンがぐっと短くなりましたね。

 

北川D:
 恐竜の研究はずいぶん進んでいるようですね。

 

大野さん:
 今や鳥類に分類されていますもんね。昔は鳥は鳥、恐竜は恐竜だと思っていました。

 

北川D:
 私は「ソロモンの指輪」を読んで動物について考えていました。もう45年くらい前のことです。ここ(アートフロントギャラリー)にはチョウチョとハチがよく飛んでいますね。

 

大野さん:
 私も先ほど見かけました。昆虫に囲まれていますね。

 

北川D:
 ゴキブリがいると大げさなほど大騒ぎになりますね。

 

大野さん:
 なぜか命の危険を感じますね。

 

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビューシリーズ
vol.1「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」
vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
vol.3「国境を越えて」
vol.4「作家の小さな日常の変化」
vol.5「時差12時間」
vol.6「リモート撮影会?」
vol.7「公共空間の新しい可能性」
vol.8「変わっていく作品」
vol.9「長い夏休み」