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2020.05.27
コラム

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビュー vol.3「国境を越えて」

 北川フラム総合ディレクターによるWEBインタビューは3回目に。これまでロシア、オランダと、ヨーロッパからの参加作家の皆さんにお話を聞きました。 今回はソカリ・ドグラス・カンプさんとミカーラ・ダウアーさんへのインタビュー。ソカリさんは朝9時半のロンドンから、ミカーラさんは夕方6時半のオーストラリアから、そして北川総合ディレクターは夕方5時半の日本から。7~8時間の時差を超えてお話を聞きました。
 市原で出会い、親しくなったお二人。とても和やかな雰囲気でのインタビューとなりました。

参加者(順不同、敬称略)
ソカリ・ドグラス・カンプミカーラ・ダウアー、北川フラム総合ディレクター

(左上から時計回りに)ミカーラ・ダウアー、北川フラム総合ディレクター、ソカリ・ドグラス・カンプ、いちはらアート×ミックス実行委員会事務局

 

 

北川総合ディレクター(以下、北川D)
 いちはらアート×ミックス2020は1年延期となりましたが、お二人はこの状況になる前に日本で作品を制作し、完成されましたね。お二人が帰国した後に日本では緊急事態宣言が発出され、外に出ることができない状況になりました。
 今、世界中の人々が同じような状況を体験しています。戦後、世界中で共通体験をするようなことはなかったのではないでしょうか。

 

北川D:
 まずソカリさんはロンドンでどのような生活を送っていますか?

 

ソカリ・ドグラス・カンプさん(以下、ソカリ)
 イギリスでは1時間ほどの外出が許されているので、最近はエクササイズをするようにしています。

 日常をこれまでと変わらないものとして扱おうとはしていますが、他人に会うなどできないことがあるので、やはり変わってしまっていると思います。

 アートについては、アートのためにアート作品を作るというよりは、役に立つものを作ろうとしています。ただ、「何が役に立つか」という私の考え自体がアートに根差しているため、変わったものになるかもしれません。

 

北川D:
 「役に立つもの」として家具を制作されているようですね。

iPhone in Artist’s Studio

 

北川D:
 ロンドンの街はどのような状況でしょうか。

 

ソカリ:
 街には人がおらず、空っぽになってしまったような印象です。特に朝のロンドンは多くの鳥が木に止まっており、彼らが木の上で育つのを窓から観察しています。人に会えたとしても、宅配業の方がほとんどです。

 アートに関する活動としては、ドイツで展示を行う予定があり、作品をピックアップしてもらうなどの活動はしていますが、物を送るだけなど、距離があるような活動にとどまっています。

 私の作品の素材であるスチールなどを買うこともできないため、スタジオに残っている素材のみで作品をつくっています。ちょうど私が冷蔵庫に残ったものを食べているような感じですね。

 

 

北川D:
 ミカーラさんはいかがですか?

 

ミカーラ・ダウアーさん(以下、ミカーラ)
 大学で教師をしていますので、忙しくしています。市原に来る前にオーストラリアで大きな火事があり、市原から帰ってきたらコロナウイルスによる隔離が始まってしまったため、半年ほど大変な状況を過ごしている気持ちです。 散歩が散歩が外にでる唯一の手段になっているため、散歩中毒になっている気分です。

 オンラインで教鞭をとることが大変でストレスを感じていますが、これは生徒の方がストレスを感じているのではないかと思います。特に、寮や下宿生活を送っている生徒たちが心配です。

 アートについては、私はグループスタジオで活動しているのでこれまでのような制作活動はできていません。最近はダンスを始めたのですが、15個ほどの作品を思いつきました。

 街の状況は、オーストラリアは州ごとに政府がありそれぞれの州で境界をシャットダウンしてしまっているため、他の州に行くことができない状況です。つい最近、5人以下での集会が許されました。次の学期には生徒も学校に戻ってくることができるかもしれません。

 

北川D:
 日本でも少しずつオンラインの授業が始まっていますが、美術系の学校はオンラインで授業をすることができないため、生徒は学校でというよりは一人で制作について考えたり、制作を進めたりしなければならない状況です。

 

 

北川D:
 ソカリさんがミカーラさんの授業に参加されたと聞きました。どんなことをしたのですか?

 

ミカーラ:
 私たちは市原で作品をつくっている間、同じ宿舎(ホテル)に泊まり、何度も一緒に朝食を一緒に食べたので友達になることができました。

 また、市原でお互いの作品を見ることもできたので、お互いを良く知ることができました。オーストラリアは他の大陸から遠く、多くの生徒たちは国際的なものに触れる機会があまりありません。そこで、生徒たちに国際的な経験をさせてあげようと思いソカリさんによる授業を企画しました。

 私の大学は午後5時までしか授業が出来ず、時差のせいで時間内にソカリさんを招いて授業をしていただくことは難しかったので、ソカリさんに授業用のプレゼンを録画していただき、授業中はそれを流すだけにしました。

 その後、非公式な授業という形で、ソカリさんと通話をする会を設け、生徒と私とソカリさんで、とてもカジュアルな対談をしました。とても好評で、生徒たちは今もソカリさんのことを話しています。彼女自身がとてもいい人で、自分の作品についてとても真摯であること、カジュアルな形での対談だったことが影響したのだと思います。

 オンラインでの対話は人情味が無いともいわれますが、今回の取組みで人と人との繋がりができたと感じています。

 

北川D:
 ソカリさんはいかがですか?

 

ソカリ:
 ミカーラさんがよく準備していただいたので、簡単にできました。(ミカーラさん:次の週の授業は全くだめでした(笑))

 私たちはビジュアルアーティストですので、作品をイメージとして見せることが大事です。オンラインで作品をリアルタイムで見せることができてよかったです。また、離れた場所同士で会話ができる、ということ自体が面白いことだと感じました。

 機会があれば東京の美大生に市原での経験や思い出、何を考えながら作品をつくっていたかなども話したいと思っています。

 

 

北川D:
 今後の作品制作などの計画はありますか?

 

ソカリ:
 たくさんの家具をつくろうと思っています。ほかには、私はこれまで作品としてとても大きな彫刻をつくってきましたが、これを怖がる人もいるかもしれませんので、家に飾ることができるような小さいサイズのものをつくろうと思っています。

 また、このパンデミックの中で自然の偉大さ、美しさについて考えるようになりました。

 

北川D:
 ミカーラさんはいかがですか?

 

ミカーラ:
 この状況の中でできることに集中しようとしています。自分がいままでやってきたことをどうにかしてやる、というよりは今できることにシフトすることが大事なのではないでしょうか。

 最近はハトの映像を撮っており、ハトが餌を食べる音を音楽に置き換える、という作品を夫と協力しながらつくろうと思っています。

 

北川D:
 お二人の新しい作品を楽しみにしています。

 

 

北川フラム総合ディレクター アーティストWEBインタビューシリーズ
vol.1「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」
vol.2「離れた場所でのコミュニケーション」
vol.3「国境を越えて」
vol.4「作家の小さな日常の変化」