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2020.03.20
コラム

ディレクターズカットvol.1
「3月20日 もともとの開催日」

  3月18日、ナイジェリアのソカリ・ドグラス・カンプさんが養老渓谷の自動車工場で作っていたクルマ状のオブジェを貨車に乗せ、レールを押してホーム横に設置する様子を見に行きました。OT(オフィス・トヨフク)チームが大勢手伝いに来ていて、壮観でした。

  

 迷路のようなレールを辿って移動するのは見られなかったのですが、これを跨線橋(こせんきょう)から覗いたらビックリするでしょう。石油のドラム缶33個のうえに竹と車が載っているのですから。展示する位置へ動かすのはまだ後になるとのことなので、スタッフも一緒に駅そばのソバ屋さんに行きました。ソカリさんのオーダーは「山菜うどん、熱いの」です。普段は養老渓谷駅そばの定食屋さんで、ソバとおでんを「うまい、うまい」と言って食べているそうです。

 数日前、仕事場で初めて彼女とお会いした時は、薄青のつなぎで、褐色の顔の中に真っ白なキレイな歯とキラキラした黒い瞳が印象的で、以来私は赤道近くのアフリカの国の大デルタにある砂州で生まれた一人の少女が、どうして日本までやってくるに至ったのか、その不思議なめぐり合わせを考えていました。「12歳の頃から美術をしたいと思っていた。けれど絵を描くのは好きではないので、彫刻みたいなことをやっていた。でも故郷では女性は彫刻をしてはいけないことになっていて、隠れてやっていた」とのことでした。両親は漁をしたり、ナパーム油を運んだりしていて、ニジェール川に数十もある砂州で生まれ育ったそうです。

  

 「あなたが生まれたブグマには、かつてカラバル王国があって、そこは『エデンの園』があったと言われているそうだが?」と聞けば、「知らなかった!」と笑ってくれる。「娘が新型コロナウィルスの影響で大変だから、早く帰ることにした」とのことで、それが私たちにとって『最初で最後の晩餐会』となったわけです。

 

 旧くからの鉄道の操車場に、アフリカの大河のデルタ地帯で生まれた彼女が石油缶と、叩いてつくった四輪車を載せた台車が鎮座している風景。新型コロナウィルスがグローバルに猖獗(しょうけつ)を極めるなかで、その風景は何か微笑ましく、現代の旅のもつ、ひとつの希望を示しているような気がしたのです。

 

 今日が『房総里山芸術祭―いちはらアート×ミックス』のもともとの開幕の日でした。現時点で開幕がいつになるかは定かではありませんが、アーティストとスタッフが頑張って、この日にほとんどの作品を仕上げてくれました。
 ありがとうございます!

 

 もちろん、新型コロナウィルスで、来られない、帰れないアーティストもおられるし、開催日が決まってから仕上げた方がよい作品もあります。パフォーマンス系も調整は大変です。しかしこのような時だからこそ、アート、文化は大切だ、と皆さん動いてくれました。意気は盛んです。

 それを受けて、このホームページのブログで作品の公開をしていきます。この芸術祭は実に楽しい。開始日にむかって作品のウェブ公開をすることにしました。
 このアート×ミックスが始まる時に、沿線全体で黄金色に輝いているようにと住民の皆さんが植えてくれた菜の花の現在の様子もあげておきます。

 

 五井駅の旧跨線橋の階段の裏・表に二つの作品が設置されています。この階段は、小湊鉄道からJR内房線への乗り換え時に使用されていたものです。

 ターニャ・バダニナの「」は、ある時間にうっすらと光が差し込み、美しい。
 レオニート・チシコフの「7つの月を探す旅」は跨線橋下にある立ち食いのおソバ屋さんがあった場所で、ロシアの二人のアーティストの作品は、遥か宇宙に続く小湊鉄道の出発点として作られました。
 お二人の作品は沿線上にたくさん登場するので、乞うご期待です。

3月20日 北川フラム