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2021.11.26
コラム
見どころ紹介!北川フラム連載 しっかり毎日とはいかないけれど「ディレクターズ カット」第2号
いちはらアート×ミックスをどう巡るか、予定をたてるのは難しい。
理想を言えば五井機関区と小湊鐡道ホームを楽しんで、列車に乗ってくださるのがよいのですが、停車時間と停車ホームの都合もあるので限られてきます。車中から見られない箇所は車で回るしかありません。
上総村上駅のホームの宇宙飛行士村上氏や上総三又駅の《三又宇宙基地》、上総川間駅のジョアン・カポーテのトランクの壁、上総鶴舞駅の成田久の《試着駅。(上総鶴舞駅 千葉県市原市池和田898-2)》、里見駅のソカリ・ドグラス・カンプの貨車の上に乗ったパレード車や最終駅に向かう途中に見えるターニャ・バダニナの《空への階段》は車中からの見学でも風情があり、外の風景と一緒に見るのはぜひ一度お試しくださいとおすすめしたいのですが、これらもひとつひとつ鑑賞したくなります。逆に遡れば養老渓谷駅のレオニート・チシコフ《私の月はいつも旅行中―7つの月を探す旅 最終駅―》はとても美しい。(月の旅の写真は馬立駅のホームに展示してあります)
飯給駅には藤本壮介の世界で一番広い女性用トイレがあり、そのあまりの人気に続いた同じ藤本壮介の林とつながったトイレが上総鶴舞駅にもあり、最近上総牛久駅には同じ藤本の本格的なトイレ集合建築もあります。これは魅力的な建物で流石の面白さがあります。
上総大久保駅を出たところにCLIPの《森の入口》トイレもありますよ。
体験してもらいたい作品も木村崇人の《森ラジオ ステーション×森遊会》があり、これなどは地元住民との10年近い時間の蓄積がありますし、里見駅は喜動房倶楽部の元気のいいおじさま達が弁当を作ったり野菜などの産品を売っていて賑わっています。
もちろん上総久保駅の西野達の《上総久保駅ホテル》は見るだけでなく一泊したいものですし、駅舎の中が味わいあり、美しいのが上総山田駅、馬立駅、高滝駅などで、ぜひ駅舎プロジェクトをゆっくり楽しんでください。
駅から歩いて行って見れるのが牛久商店街です。ここには豊福亮の《牛久名画座》があり、古今東西の模写作品が壁・天井とところ狭しと飾られていますが、ここはやがて絵画教室や街づくりに向かうワークショップの拠点となっていくものです。
中国のマー・リャン(馬良)は昔なつかしい紙芝居から想を得た《移動写真館》をつくりました。土地の人がさまざまな人物に扮して記念写真を撮るというサイトスペシフィックなもので、コロナ禍をものともしない優れもので人気があります。
柳建太郎の《KINETIC PLAY》はまさに職人の作業室、秘密の研究所であるような落ち着いた空間で、様々な古時計、あるいはその内部構造が美しく掛けられています。これだけでも魅力的ですが、壁や机の上には作家自身の工房「アトリエ炎」から生まれた耐熱ガラスによる超絶技巧の美しい細工品があって嬉しくなります。しかしこれで驚いてはいけない、アーティスト柳建太郎は印旛沼の名人漁師なのです。会ってみたいな‼
さて牛久商店街の圧巻は、中﨑透の《Clothing Fills in the Sky》。安藤商店の2階3階全体を使ったインスタレーションです。昭和の、戦中、戦後から東京オリンピックに始まる高度成長経済期の町が発展していくさまが、今に残されたさまざまな年齢・職種オールラウンドな洋装品から家具、装飾品などありとあらゆる売物が所狭しと並んでいる中に、中﨑によるライトボックス、絵、写真が設置され、そこに安藤夫妻から伺った話がチャプター1から23まで挟まれていて、これが実に体験として面白い仕掛けになっています。安く仕入れて安く売る、何かは買っていってもらう、とにかくサービスなんだといって朝から晩まで働きづめる商売の実感が伝わってくるし、こういう洋品店、雑貨店が百貨店になっていった時代、そしてそれが衰退していった現代に私たちははまっていってしまうようにできている。この会期中1か月間しか見られないと思うと残念な名作です。
(11月24日)